奇跡の軌跡I

2022年4月2日午前2時

その抽選会は異様な雰囲気と言って差し支えない中行われた。2022FIFAワールドカップカタール大会予選ラウンド組み合わせ抽選会だ。予選でどの国と対戦するのか、注目の強豪国はどの組みに入るのか、POT2までの抽選が終わった段階で、一際注目を集めたグループがあった。

グループE  スペイン・ドイツ

予選から優勝候補の激突。このカードが大会の決勝であったとしてもなんらおかしくはない今大会屈指の好カードだ。全サッカーファンは期待した。予選から面白い試合が観られると。だが同時に、この組に入ることは避けなければならない事もまた、理解していた。過去21回開催されたワールドカップだが、優勝トロフィーを掲げた国はわずかに8カ国。2010年大会優勝、無敵艦隊の名を持つスペイン代表。4度の優勝を誇る圧倒的な実績と疑いようのない実力を持つドイツ代表。紛れもなく今大会優勝候補の2チームであり、この組に入ることは事実上の予選敗退を意味している。しかし運命とは残酷なものだ。残り16チームのうち2チームは予選で優勝候補2カ国との対戦を余儀なくされる。世界中のサッカーファンは、その2カ国に自分の国の名が入らぬことを願っていた。

POT3 グループE  日本

各種SNSでは落胆と絶望の声が瞬く間に広がった。この時点において、スペインとドイツが決勝トーナメントに上がることを恐らくは誰も疑っていなかったのだ。口では我が国を応援していたとしても、その心の奥底において、勝てると信じて疑わなかった国民がどれほどいるだろうか。少なくとも私はこの時点で日本の予選突破を諦めていた。

 

2022年11月23日

日本対ドイツ

大方の予想は当然ドイツの勝利であった。私を含めた観衆のそのほとんどが、限りなく低い可能性を信じながら、敗北を受け入れる覚悟をしていた。選手当人達を除いては。

前半終了 ドイツ1−0日本

大方の予想通り、ドイツリードで折り返す。しかし我々は知る由もなかった。この後に起こる最高にスペクタクルな試合展開とその結末を。

75分 GOAL 日本1−1ドイツ 堂安律

全国民が期待してやまなかった同点ゴール。そして、奇跡は起こった。

83分 GOAL 日本2−1ドイツ 浅野拓磨

この展開を誰が予想しただろうか。奇跡が起きたと日本の全サッカーファンが狂喜乱舞した瞬間であった。

試合終了 日本2−1ドイツ

あり得ないなんてことはあり得ないのだと。代表の彼らは結果を持って示してくれた。恐らくは当人以外誰も信じていなかったこの結果は世界を驚かせるには十分すぎるものだった。前日のサウジアラビアの勝利も含め、今回のアジアは一味違うと、世界中の観客を結果で黙らせた。日本中が歓喜した。ドイツに勝ってコスタリカに負けることなどあり得ないと。この一勝は予選突破を決定的な物にしたと。だがしかし、全てが上手くいくほどこの大会は甘くない。

試合終了 コスタリカ1−0日本

 

続く