奇跡の軌跡II
この記事は前回『奇跡の軌跡Ⅰ』の続編です。下のリンクからどうぞ。
VSコスタリカ 0-1
翌日に行われる同組のスペインvsドイツの試合結果如何によってはこの試合でグループステージの突破が決まる大事な試合だった。そして事実、勝っていればグループステージ突破は確定していた。だがしかし、そう上手くはいかない。それがワールドカップなのだ。これまで多くの国が夢を見ては挑戦し、敗れていった。世界211の国と地域の頂点を決める大会なのだ。簡単なはずはない。ましてや相手も強豪コスタリカ。鉄壁のGKナバスを筆頭に堅守を誇る5バックから、日本は点を取ることができなかった。最後は甘くなったクリアボールを奪われた失点。呆気ない幕切れであった。
そして舞台は最終節スペイン戦に..........
12/2 4:00 VSスペイン
同時刻でドイツVSコスタリカも行われるというこの最終節。グループの4カ国全てにグループステージ突破の可能性が残っているが、日本にとっては勝てばもちろん、引き分けでも裏の試合の結果次第でグループステージ突破が決まるという字面だけなら有利に見える展開。しかし相手はあのスペインだ。日本にjリーグができた1993年以来、サッカーの育成という点において日本がモデルケースとして学んできた国の一つだ。師匠とも言える国を相手にどこまでやれるのか、非常に楽しみで仕方がなかった。
前半はスペインにボールをずっと回される展開。さすがはスペイン。ボールを扱う技術力は世界随一だ。そしてその時は早い時間に訪れた。
11分 GOAL 0-1 スペイン
日本にとっては何もできない状況からの失点。負けるとグループステージ敗退が決まってしまう。点を取りにいかなければならなくなってしまった。
この状況のまま試合は後半に突入する。そしてこの後半の45分はグループE4カ国全てを巻き込んだ大波乱の展開を見せることを、我々は知る由もなかった。
48分 GOAL 1−1 堂安律
後半開始から僅かに3分。日本に待望の同点弾が生まれた。またしてもこの男、堂安律によって。ドイツ戦と同じく同点ゴールを叩き込んだ。いかにも彼らしい豪快なミドルシュートはキーパーの手を弾き飛ばしてゴールネットを揺らした。そして次の瞬間。
51分 GOAL 2-1 田中碧
ドイツ戦を思い出させるかのような逆転劇。正に奇跡のゴールだった。堂安が出したパスにギリギリで反応した三笘のラストパスに反応した田中の執念のゴール。見事だった。後半始まって僅か6分で日本が逆転に成功した。裏の試合は同時刻後半51分の時点で1−0でドイツリード。このままいけば日本とスペインが突破を決める。このままであれば。
58分 GOAL 1−1 コスタリカ
70分 GOAL 2−1コスタリカ
なんとコスタリカが逆転に成功。これによってスペインはこのままだと敗退してしまう。このことがスペインの攻撃をより一層激しくさせた。だがしかし、このまま終わるドイツではなかった。
73分 GOAL 2-2 ドイツ
執念の同点弾。まだドイツは諦めていない。日本が引き分ければ得失点差でドイツ代表がグループステージを突破することができるのだ。何よりも2大会連続でグループステージで敗退するなど王者ドイツにはあってはならない事なのだと。そしてここからドイツの猛攻が始まる。
85分 GOAL 3-2 ドイツ
89分 GOAL 4-2 ドイツ
怒涛の連続得点。ドイツがここから5点取ることは現実的ではないため、後は日本が引き分けることを祈るのみ。しかし、ついぞそれは叶わなかった。
試合終了
日本2-1スペイン
ドイツ4−2コスタリカ
この結果グループEは
1位日本
2位スペイン
3位ドイツ
4位コスタリカ
となり、日本とスペインのグループステージ突破が決まった。グループEの組み合わせが決まったとき、誰がこの結果を予想しただろうか。日本がドイツとスペインを抑え、1位で勝ち上がるなど考えただけ者は世界中を見渡してもそうはいなかったはずだ。何より、日本というアジアの小国がワールドカップ優勝経験のある国を2カ国も打ち破ったことは世界に日本という国の強さ、素晴らしさを知らしめるには十分すぎる結果だろう。何度も言うが、組み合わせ抽選会の時点では全敗で終わる可能性も示唆されていたのが日本という国であり、それが世界からの評価であったのは紛れもない事実だ。しかし彼らはその下馬評を見事に覆し、予選一位という結果を突きつけた。そしてこの時点で、日本サッカーファンの中でベスト8は夢ではなく現実になろうとしていることを感じ取っていたはずだ。断じてクロアチアを軽視しているわけではない。それ以上にドイツとスペインを破ったという事実が否応にも期待感を高めていた。この2カ国に勝ててクロアチアに勝てない道理などあるはずがないと。日本初のベスト8に過去最高の期待感を持って決勝トーナメントに挑む。
そしてその日はやって来る……
12/6 0:00 VSクロアチア
日本のワールドカップ史上初のベスト8に向けた最後の砦だ。前回大会準優勝であり、世界最高峰のMFルカ・モドリッチ率いるクロアチアを相手に日本サッカーの4年間全てをぶつける戦いだ。
試合は拮抗していた。その中でやはり圧倒的なプレゼンスをしめすのはモドリッチ。多彩なパス、ドリブル、シュート。どれをとっても超一流な彼を起点にクロアチアは多様に攻めてくる。ボール保持率は相手があっとうしていたが、日本も負けてはいない。予選1位突破の誇りにかけて、こんなところで負けてはいられないと奮闘していた。そんな中で、試合が動いたのは前半終了間際のセットプレーだった。
43分 GOAL 1-0 前田大然
見事という他ない完璧なゴール。美しさすら覚えるようなデザインされたコーナーキックから日本がクロアチア相手に先制点をもぎ取った。このコーナーキックは確実に用意されたものだった。負けたコスタリカ戦でもなければドイツ相手でもスペイン相手でもない。このベスト16の試合で勝つために。確実に特典を奪うために。磨き、研ぎ澄まされた、正に最終兵器。温めていた武器がクロアチア相手に貴重な一撃を喰らわせた。真の意味で。日本がベスト8に王手をかけた瞬間だった。しかしクロアチアも黙ってはいない。後半始まって10分が過ぎようたした頃だった。
55分 GOAL 1-1 クロアチア
完璧と言わざるを得ないゴール。素晴らしいクロスからペリシッチの強烈なヘディングシュートで日本のゴールに突き刺した。
そこからは一進一退の攻防。お互い素晴らしい攻撃と守備を魅せ、試合は延長戦へと突入する。
延長に入っても激しい試合展開だった。幾度となくチャンスを作っては守り、守っては攻めを絶えず繰り返していた。しかし両国の守備は堅く、ついにそのゴールが割られる事はなかった。
延長終了。PK戦へ。
お互いに負けられない理由がある。勝つためにここまで来た。日本は初のベスト8の為に。クロアチアは前回大会の雪辱を果たすために。それぞれの想いを胸に、繰り広げられた120分の激闘。それでも決着はつかない。それほどまでに拮抗した素晴らしい試合だ。しかし次に進めるのはどちらか片方のみ。ロシアワールドカップからの4年間の集大成はこのPKで全て決まる。
一人目のキッカーは南野。
中央より少し右に蹴るも相手GKに止められる。
クロアチアは一人目が決めて0-1
日本の二人目は三笘。
ゴール左側を狙うもまたしても相手GKがストップ。
クロアチアは二人目も決めて0-2
日本の三人目は浅野。
ゴール上段に勢いのあるシュートが決まり初の成功。
クロアチアが外して1-2
日本の四人目は吉田。
力のないシュートはまたしても相手GKにセーブされてしまう。
そしてクロアチアの四人目が決めて1-3
試合終了
日本 1-1 (PK1-3) クロアチア
ベスト8を目指した日本の戦いは、またしてもベスト16で幕を閉じた。ベスト8に挑んだのは今回で4度目。しかしまたしても、その壁を打ち砕くことは叶わなかった。前回大会に引き続き、2大会連続でのベスト16進出は果たしたものの、最大の目標は達成できなかった。日本サッカーのレベルは確実に上がってきている。しかし同時に他の国々も同じ期間で成長してきている。当たり前のことをしているだけでは先を行くものには追いつけない。差別化し、違いを生み出さなければ他を抜いて成長することはできないのだ。当然のことではあるが、それを再認識させられた。今回の結果は無念に終わった。しかし全てを悲観するほどでもない。10年前には日本がドイツ、スペインに勝つことなど考えられなかったし、現在ほど多くの日本人選手が海外で活躍しているわけでもなかった。香川真司を筆頭に、長友佑都、本田圭佑、内田篤人、岡崎慎司、長谷部誠etc…多くの偉大な先人たちが切り開いてきた海外への道が今の日本サッカーの礎となっている。ここからの四年間で日本サッカーはどういった違いを生み出せるのか、そして新たなる若き才能の躍動含め、次のワールドカップまでが今からとても楽しみで仕方ない。